73%と6.6%——AIの浸透格差が意味するもの
2026年4月、Digidayの報道が小売業界のAI活用における重要なギャップを浮き彫りにしました[1]。
調査によると、**仕事でAIを利用している人は73%**にのぼります。一方、買い物でAIを利用している人はわずか6.6%。企業側でのAI導入は急速に進んでいるにもかかわらず、消費者の購買行動へのAI浸透はまだ始まったばかりという現実が示されました。
小売業界のAI議論は3年で大きく変化した
記事によると、小売業界カンファレンスでのAIに関する議論は段階的に進化しています。
| 時期 | 議論の中心テーマ |
|---|---|
| 2年前(2024年) | AIのリスクと便益の議論 |
| 昨年(2025年) | カスタマーサービスや在庫管理への活用 |
| 今年(2026年) | 実際の成果の証明と明確な戦略の構築 |
デジタルマーケティング企業WithinのCEO、Joe Yakuelはこう指摘しています。
「AIで何ができると"思う"か、何を"しようとしている"かではなく、AIで実際に何を"やっている"かを教えてほしい。この2つの間には巨大な溝がある」
実績を出し始めた先行企業
Macy's「Ask Macy's」——利用者の支出が400%以上に
最も注目すべき成果を出しているのが、米大手百貨店Macy'sのAIショッピングアシスタント**「Ask Macy's」**です。
Macy'sの調査によると、Ask Macy'sを利用する買い物客は、利用しない人と比べて400%以上の支出を記録しています。AIアシスタントが商品選びをサポートすることで、顧客の購買意欲と購入単価が大幅に向上した形です。
David's Bridal「Pearl」——サイト滞在時間の増加
ブライダル大手David's BridalのElina Vilk会長兼最高ビジネスオフィサーは、結婚式計画プラットフォーム**「Pearl」**のAI活用について言及。サイト滞在時間の増加を報告しています。
E.l.f. Beautyの4つの柱
化粧品ブランドE.l.f. BeautyのChief Digital Officer、Ekta Chopraは、AI活用を以下の4つの柱で推進しています。
- 人間の生産性向上——社員の業務効率をAIで支援
- LLMでの権威性確立——大規模言語モデル上でブランドの存在感を高める
- 組織全体のプロセス再考——既存の業務フローをAI前提で見直す
- エンドツーエンド自動化——業務の全工程を自動化できるか検討
特に強調されたのが組織変革の重要性です。
「これは組織にとって大きな変化として扱う必要がある。自社の人材がどう進化していくかを考えなければならない」
ChatGPTの決済機能撤退が示す教訓
記事では、ChatGPTがInstant Checkout(即時決済)サービスから撤退したことも重要な教訓として取り上げられています。
多くの消費者がAIチャットボット内での決済に抵抗感を持っていることが判明し、「AIで何でもできる」という楽観論に冷水を浴びせました。
| AI活用が進んでいる領域 | まだ抵抗が強い領域 |
|---|---|
| 商品検索・レコメンド | AIチャット内での決済 |
| カスタマーサポート | 個人情報の入力 |
| 在庫管理・需要予測 | 購入判断の完全委任 |
消費者は「AIに助けてもらうこと」には前向きでも、「AIに買い物を任せること」にはまだ慎重であるという実態が浮かび上がります。
業界に生まれた「共有と実験の文化」
一方で、前向きな変化も報告されています。メディアエージェンシーJanuary DigitalのSarah Engel会長は、AIブームが業界内の情報共有文化を促進していると評価しています。
- 企業が試行錯誤に寛容になっている
- 失敗を許容する環境が形成されている
- 他社の成功事例を積極的にシェアする動きが活発化
「調整期」であること自体はネガティブではなく、業界全体が学習しながら進んでいる段階といえます。
日本の小売業界への示唆
消費者の準備は「まだこれから」
日本でもAIチャットボットやAIレコメンドの導入が進んでいますが、消費者が購買行動でAIを積極的に使う段階には至っていません。まず「便利さを体感させる」接点づくりが重要です。
成果を測定できる仕組みが必須
「AIを導入した」で終わらせず、導入前後の数値変化を明確に測定する体制を整えましょう。Macy'sのように「AIアシスタント利用者の支出が4倍」と言えるデータがあれば、社内の投資判断も加速します。
組織変革とセットで考える
E.l.f. Beautyの事例が示すように、AI導入は技術だけの問題ではありません。人材のスキルアップ、業務フローの見直し、組織文化の変革を並行して進めることが、持続的な成果につながります。
出典 [1] Digiday「AI talk at retail events shifts to proving real results, defining a true strategy」(2026年4月6日)
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