「広告の前提」が同時多発的に書き換えられている
2026年6月、広告業界にとって見逃せない動きが重なった。世界最大の広告フェスティバル「カンヌライオンズ」でOpenAIが初出展し広告事業への参入を正式に宣言。Amazonは会話で購入まで完結する新しい広告フォーマットを発表した。そして同時期に公開されたグローバルのCMO調査は、AIへの投資が急増する一方で「使いこなせている組織は少数派」という実態を数字で示した。この3つを重ねると、広告の「前提」がいま根底から書き換えられようとしているのが見えてくる。
OpenAIがカンヌで「広告ビジネスだ」と宣言——検索広告の次が動き出した
ChatGPTを運営するOpenAIが6月22〜26日のカンヌライオンズに初出展し、最高収益責任者が「私たちは明確に広告ビジネスだ」と公言した。ChatGPTの週間利用者数はすでに9億人を超えており、2026年の広告収益見込みは約3,750億円、2030年には1,000億ドル(約15兆円)への拡大を目指している。
最大の注目点は、ユーザーが広告に触れるタイミングだ。ChatGPTのユーザーは商品やサービスを「比べて、悩んで、決める」段階で長時間会話を続ける。これはGoogleやYahoo! JAPANの検索広告と同様に、購買意図が高い層へのリーチという強みを持つ。広告は「スポンサード」と明示される形式で、ユーザーの会話内容は広告主に共有しないとしているが、今後の仕様変更には注視が必要だ。
日本での展開時期や仕様はまだ不明瞭な部分が多い。しかし「検索広告の次」が具体的な形として動き出したことは確かであり、グローバルのメディアプランを検討する企業は今から把握しておくべき変化だ。
Amazonが「会話で購入が完結する広告」を発表——クリック後の世界が変わる
Amazonが「Agentic Ads(エージェンティック広告)」を発表した。Echo Showなどのデバイスで広告を見たあと、AIアシスタント「Alexa+」と声で会話しながら商品の詳細や席種・人数を絞り込み、そのまま購入まで完結できる仕組みだ。Papa Johnsやコンサートチケットサービスがすでにベータ導入を始めており、Fire TVへの展開も予定されている。
従来の広告の流れは「広告を見る→クリックする→ランディングページへ遷移する→購入する」だった。このフォーマットでは「広告を見る→声で会話する→その場で購入する」に変わる。成果指標も「クリック率(CTR)」から「会話を経た購入完了数」へと移行する点が大きな変化だ。
日本では音声デバイスを使った購買はまだ一般的ではないが、「LINEで問い合わせてそのまま予約・購入」「InstagramのDMで相談して申し込み」といった流れはすでに定着しつつある。「会話の中で売る」という設計思想をコンテンツ戦略や広告設計に組み込むことは、近い将来の差別化につながりうる視点だ。
CMO調査が示す「使えない7割」の実態——ツールより人と仕組みへの投資が急務
6月26日公開のグローバルCMO調査によると、マーケティング予算に占めるAI投資の割合は平均15.3%に達した。しかし「AIを本格活用できる組織体制が整っている」と答えた組織はわずか30%にとどまる。「自社のAI活用は優れている」と自己評価できたのはわずか12%で、従業員のAI研修に使われる予算は全体のたった3.8%という数字も明らかになった。
端的に言えば「ツールは買ったが、使える人がいない」状態が世界的に広がっている。日本企業ではこの傾向がさらに顕著になりやすい。社内でのAIツール導入が進んでも、使いこなしのためのトレーニングや評価制度、日常業務へのAI組み込みルールの整備が後回しになりがちだからだ。
ツールへの投資と並行して、「使える人を増やす仕組み」への投資が求められている。小さな成功事例を積み上げること、業務フローへのAI活用ルールを言語化すること、研修予算を意図的に確保することが、AI格差を縮める第一歩になる。
日本のマーケターへの示唆
3つの動きが共通して示すのは、「広告の形」「購買の経路」「組織の実力」という三つの軸が同時に揺れているということだ。ChatGPT広告が本格化すれば検索広告との予算配分の再考機会が生まれ、会話型購買が広がればランディングページよりも「対話の設計」が価値を持つようになる。そして組織のAI活用格差が拡大する中で、ツール導入と人材育成をセットで進めた企業が競争優位を築くことになる。変化のスピードが速いからこそ、情報を追うだけでなく「自分たちはどう動くか」を問い続けることが、今のマーケターに求められる姿勢だ。
出典
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