「AIを使う」と「AIを使いこなす」の間にある、埋まらない溝
2026年春、マーケティングのAI活用をめぐるニュースが立て続けに出ています。グローバル調査では「AIに予算を注いでいるが体制が追いついていない」という矛盾が数字で明らかになり、OpenAIはChatGPT内への広告出稿を中小企業にも開放し、GoogleはAI主導の広告管理への強制移行を9月から断行すると発表しました。どれも「対岸の火事」ではありません。この3つの動きを日本のマーケティング実務に引き寄せて読み解きます。
予算15%投入・準備完了は3割だけ——「投資先行」の罠
ガートナーが2026年5月に発表したCMO実態調査(北米・英国・欧州の401社対象)によると、マーケティング予算の平均15.3%がすでにAI関連に充てられています。にもかかわらず、「AIを本格的にスケールできる態勢が整っている」と答えた企業はわずか30%。「AIリーダーになることが今年の最重要目標」と答えた人は70%に達する一方、同じ70%が「社内の仕組みはまだ追いついていない」と認めており、意欲と実態の乖離が鮮明です。
この数字は日本にとっても他人事ではありません。国内の多くの企業でも、生成AIツールの導入費用やSaaSライセンス料を計上しながら、実際の活用は一部担当者の個人努力に留まっているケースが目立ちます。調査では、AI主導の業務自動化の割合が現在の16%から2028年には36%に倍増すると予測されています。この2年間が「使える体制を作る」最後のタイミングです。
まず取り組むべきは、ツールの追加購入より社内のデータ整備とプロセス設計です。AIは「良質なデータ」と「明確な業務フロー」が揃って初めて機能します。マーケ部門単独で完結させようとせず、情報システム部門や経営企画と連携したロードマップを今年中に描くことを優先してください。
ChatGPTに広告が出せる時代——「調べながら決める」瞬間を捉える新チャネル
OpenAIは2026年5月、ChatGPT内に広告を自社で出稿・管理できる「Ads Manager」の提供を開始しました。これまでは最低5万ドル(約750万円)の出稿保証が必要で、事実上大企業専用のチャネルでしたが、この金額制限が撤廃され、中小企業も参入しやすい環境になっています。課金方式も、表示回数単位に加えてクリック単位が選択可能になりました。
この広告チャネルの最大の特徴は、ユーザーが「何かを調べながら意思決定している」まさにその瞬間に広告が届く点です。検索広告に似た性質を持ちつつ、会話の文脈に自然に溶け込む形で表示されるため、「調べる→比較する→購入する」という購買プロセスの前半を直接サポートできます。
日本市場では代理店経由での利用が主流になる見通しですが、自社でAds Managerを試験運用することで、どの問いかけに対して広告が表示されるか・どのような文脈でブランドが語られるかを把握することができます。まずは少額の予算で検索広告との効果比較テストを行い、自社の商材との相性を見極めることをお勧めします。
Google AI Max 強制移行——9月までに「AI Brief」を準備せよ
Googleは2026年9月から、既存の「動的検索広告(DSA)」と一部の自動設定キャンペーンを、AI主導の広告管理機能「AI Max」へ強制移行すると発表しました。AI Maxは、検索語句の自動拡張・広告文の自動生成・リンク先URLの自動選択をAIが一括で担う仕組みです。Googleの発表では平均コンバージョンが7%向上するとされていますが、業界調査では84%の広告主が「効果がニュートラルかマイナス」と回答しており、評価は割れています。
「強制移行」である以上、対応を先送りにする選択肢はありません。特に注意すべきは、AIが意図しない広告文や遷移先URLを生成するリスクです。競合比較を連想させる表現、価格保証を暗示する文言、ブランドガイドラインに反する言い回しなどが自動生成される可能性があります。
その対策として、Googleが2026年4月に追加した「AI Brief」機能を活用してください。これは平文の日本語テキストで「この広告では○○という表現は使わない」「製品の訴求軸は△△に絞る」といった方針をAIに伝えられる機能です。まず自社の広告NGワードリスト・ブランドトーン・訴求の優先順位を文章でまとめ、9月の移行前に設定を完了させることが急務です。DSAを運用している担当者は、今すぐ現状の設定を棚卸しすることから始めましょう。
日本のマーケターへの示唆
3つのニュースに共通するのは、「AIへの対応は意欲があれば十分」という時代が終わり、具体的な体制・プロセス・ルールを整備した企業だけが恩恵を受けるフェーズに入ったということです。予算を積んでいるのに体制が追いつかない「投資先行」の状態から脱するには、ツール選定より先に「誰が・何を・どう判断するか」を決める社内の仕組みづくりが欠かせません。新しい広告チャネルには早期に小さく試し、強制移行には文章でAIをコントロールする準備を今すぐ進める——この3点を2026年後半の優先課題として位置づけることをお勧めします。
出典
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