「予算は動いている、でも体制が追いついていない」が世界標準になってきた
AIの話題が絶えない今年、海外では「どうAIを使うか」よりも「AIを使いこなせる組織になれているか」が問われる段階に移行しています。2026年5月、ガートナーとGoogleという業界の巨人が相次いで公表した最新データと動向は、日本のマーケター全員に関わる変化の速さを改めて突きつけています。3つの重要ニュースを整理しながら、私たちが今取るべきアクションを考えます。
【トピック1】マーケ予算の15%がAIへ――でも「使いこなせている」は3割だけ
ガートナーが5月11日に公表した「2026年CMO支出調査」によると、マーケティング予算の平均15.3%がすでにAI施策に充てられています。金額ベースでは決して小さくない数字ですが、注目すべきは別の数値です。「AIを組織全体に広げられる準備が整っている」と回答したCMOは、たったの30%にとどまっています。
つまり、7割のCMOが「投資はしているが、組織がついてきていない」という状況にあります。AI先進企業では同じ予算の21.3%をAIに投じており、準備が整っているかどうかが投資額の差にも直結していることがわかります。また「AIリーダーになることが今年の最重要目標」と答えたCMOは70%に達した一方、56%が「予算が足りない」を課題に挙げています。
日本企業に置き換えると、この「乖離」はさらに大きいかもしれません。国内では「まずツールを入れてみた」段階の企業が多く、使いこなすための社内ルール整備・スキル教育・ワークフロー変更が後回しになるケースが目立ちます。SalesforceのMarketing CloudやAdobeのMarketo Engageといった海外ツールを導入している企業でも、実際に使いこなしている機能は全体の一部という声はよく聞きます。「AI活用」という言葉は同じでも、ツールを導入した状態と、ツールが業務に定着した状態は全く別物です。予算を組む前に「受け皿となる組織・人」を作ることが急務と言えるでしょう。
【トピック2】Google AI検索に広告が直接入り込む――リスティングの常識が壊れる
Googleが「AI Mode」(AI検索)の回答欄の中に、新しい広告形式「Sponsored Stores」「Direct Offers」のテストを始めています。これは従来の「検索結果ページの上部や下部に広告を置く」という形式とは根本的に異なります。
「Sponsored Stores」はAIが生成した商品紹介パネルの中に店舗情報が表示されるもの、「Direct Offers」はAIの回答文そのものに割引情報が差し込まれる形式です。つまり、ユーザーがAIの回答を読んでいる最中に広告に触れる仕組みです。5月20日のGoogle Marketing Liveでさらなる詳細発表が予告されており、今後も動向から目が離せません。
日本のマーケターに与える影響は大きいです。従来のリスティング広告の設計思想——「キーワードを選んで、広告文を作って、ランディングページに誘導する」——だけでは通用しなくなる可能性があります。AIが検索体験の入口になっていくにつれ、「AIの回答の中で自社がどう見えるか」「AIに正確な商品情報を認識してもらうにはどうすればいいか」という観点が、広告戦略の中心課題になってきます。構造化データの整備やブランド情報の一貫性管理が、SEOとは別軸の重要課題として浮上してくる時代です。
なお市場調査会社eMarketerの予測では、2026年にはMetaの広告収益が初めてGoogleを上回ると見込まれています(Meta約2,435億ドル対Google約2,395億ドル)。広告プラットフォームの力学自体も変わりつつあり、「どこに予算を配分するか」の見直しも迫られています。
【トピック3】2028年にはマーケ業務の3分の1がAI担当に
5月12日開催のガートナー・マーケティング・シンポジウムでは、衝撃的な予測が発表されました。現在AIが担うマーケティング業務の割合は16%ですが、2028年には36%まで倍増するという見通しです。
業務の3分の1がAIに移行するとなれば、これはマーケターの仕事量が単純に減るという話ではありません。採用・育成・役割設計という人事側の構造にも直結します。「コンテンツ制作の初稿はAIに任せ、戦略判断は人が担う」「データ分析のレポート生成は自動化し、顧客との関係構築に人が集中する」——こうした線引きを今から考えておかないと、2年後に慌てて再設計することになります。
同時に、全体の80%のCMOが「スタッフの不安・抵抗感がAI実験を阻む壁になっている」と認識しているという結果も見逃せません。日本の職場環境では「業務変更への合意形成」に時間がかかる傾向があり、この課題はより深刻かもしれません。小さなパイロットプロジェクトから始め、「AIと一緒に仕事をする体験」を現場スタッフと積み重ねていくことが、抵抗感を和らげる近道です。
日本のマーケターへの示唆
3つのニュースが共通して示しているのは、「AIを入れること」よりも「AIが機能する組織・環境を作ること」の重要性です。予算を組むより先に、社内でAIを試す文化と最低限のルール整備が必要です。広告の出し方も、検索の在り方も変わっていく今、「今のやり方がいつまで通用するか」を問い続ける姿勢こそがマーケターに求められています。まず自社の現在地——「何がAIで動いていて、何がまだ人頼みか」——を棚卸しするところから始めてみてください。
出典
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